最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)1056号 判決 1958年3月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人近藤亮太同寺尾元実の上告理由第一点について。
論旨は事実誤認の主張であつて上告の適法な理由とならない。
同第二点について。
原判決の確定するところによれば、被上告人は、昭和二八年二月二七日本件物件をその所有者浮田印刷機械株式会社から買受けてその所有権を取得したというのである。上告人は、右所有権の移転については、物件の引渡がないから、被上告人は、その所有権の取得をもつて上告人に対抗することができないと主張するけれども、上告人は洞井多喜男に対する債権者であつて、右債権のため洞井の占有していた本件物件を仮差押したというに過ぎず、右物件は差押の当時も浮田印刷機械株式会社の所有であつて、上告人の前示差押もその目的をあやまつたものであつたことは、また原判決の確定するところであるから、上告人は、浮田印刷機械株式会社と被上告人間の本件物件の所有権の移転につき、その引渡の欠缺を主張する正当の利益を有しないと判示した原判決は正当であつて、所論のような違法ありとすることはできない。既に上告人に引渡の欠缺を主張する正当の利益がないとする以上、引渡の有無について論議するの要なきことは明白である。論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)